在宅酸素療法(HOT=ホット。自宅で酸素を吸う治療のこと)が必要と言われても、自宅に帰る選択肢はあります。主治医が流量と時間を決め、酸素の業者が機器を設置して使い方を説明し、訪問看護が自宅での暮らしを支えるという分担で、多くの方が自宅で療養しています。
この記事では、導入の流れ、火気・チューブ・停電の注意、費用の考え方、訪問看護でできること、退院前に確認しておくことをまとめました。ご家族と、病院の退院支援担当(退院調整看護師・医療ソーシャルワーカー)の方に向けた内容です。
※2026年10月時点の情報です。最新の制度は公式情報をご確認ください。
在宅酸素療法(HOT)とは。酸素が必要でも自宅に帰る選択肢はあります
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在宅酸素は「自宅に帰れない理由」ではなく、「自宅で暮らすための治療」です。酸素の機器は自宅に置けるように作られており、外出用のボンベもあります。
どんな方が在宅酸素を使うのか
日本呼吸器学会の市民向けQ&Aでは、在宅酸素療法の対象は慢性呼吸不全の方で、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺結核後遺症、間質性肺炎などが主な病気として挙げられています。
慢性呼吸不全とは、血液中の酸素が足りない状態が1か月以上続くことです。治療は在宅酸素療法、換気補助療法(機械で呼吸を助ける治療)、呼吸リハビリテーションの3つに分けられます。
自宅では、空気中の酸素を濃くする「酸素濃縮器」や液体酸素の機器から、カニューラ(=鼻に当てる細いチューブ)で酸素を吸います。外出のときは軽いボンベを使います。
「酸素=自宅は無理」と決める前に、不安を分けて考える
「在宅酸素」と聞いた途端に、施設を考え始めるご家族は少なくありません。ただ、不安の中身を分けると、相談できることが見えてきます。
- 機器が使えるか → 業者が設置と使い方の説明をします
- 火や停電が怖い → 注意点と備えは決まっています(後の章で説明します)
- 体調の変化に気づけるか → 訪問看護が呼吸の状態を一緒に見ていきます
- 費用が心配 → 医療保険と、負担を抑える制度があります
施設への入所を選ぶことも、もちろん一つの選択です。どちらが合うかは、退院前に病院の地域連携室や相談員、ケアマネジャー、訪問看護と話して決めて構いません。
在宅酸素の導入の流れ。主治医の判断から機器の設置まで
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在宅酸素は、主治医の判断で始まり、業者が機器を届け、退院前後に使い方を覚えるという順番で進みます。
退院までの4ステップ
| 順番 | やること | 主に関わる人 |
|---|---|---|
| 1 | 酸素が必要かを判断し、流量(1分あたりの酸素の量)と吸う時間を決める | 主治医 |
| 2 | 酸素の業者を決め、自宅に酸素濃縮器などを設置する日を調整する | 病院・業者・ご家族 |
| 3 | 機器の使い方、ボンベへの切り替え、連絡先の説明を受ける | 業者・病棟看護師 |
| 4 | 退院後の訪問看護・介護サービスを整え、退院前カンファレンスで情報を共有する | 退院支援担当・ケアマネジャー・訪問看護 |
流量は主治医の指示どおりに
息苦しいときに酸素を増やしたくなる気持ちは自然です。ただ、酸素の流量と時間は主治医が決めるものです。日本呼吸器学会のQ&Aでも、流量と時間は主治医と相談するよう書かれています。夜間は思ったより酸素が下がることがあるため、眠るときの吸入も主治医の指示どおりに続けます。
退院の話し合いの進め方は、退院前カンファレンスで訪問看護と決めておくことにまとめています。
在宅酸素の暮らしで気をつけること。火気厳禁・チューブ・停電・外出用ボンベ
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自宅での注意は「火」「チューブ」「停電・災害」「外出」の4つに分けると整理しやすくなります。正しく使えば、過度に怖がる必要はありません。
火気厳禁は、本人だけでなく家族や来客も
酸素は物が燃えるのを強く助ける性質があります。厚生労働省の注意喚起では、酸素の装置の周囲2m以内に火気を置かないこと、酸素吸入中にたばこを吸わないことを呼びかけています。同じページには、喫煙などが原因と考えられる火災で、死亡や重いけがにつながった事例が繰り返し報告されています。
火の元はたばこだけではありません。PMDA(医薬品医療機器総合機構)の患者向けQ&Aは、仏壇の線香やろうそく、ガスコンロ、ストーブも火災の原因になるとしています。ご家族も、酸素を吸っている方の近くで火を使うことを避けてください。
一方で、厚生労働省の「在宅酸素療法における火気の取扱いについて」は、火気に注意して取扱説明書どおりに使えば、酸素が原因でチューブや衣服が燃えることはないとしています。怖がって酸素を減らすのではなく、医師の指示どおりに吸うことが大切です。
国は、医療機関や酸素の販売業者に対しても、患者さんとご家族への注意喚起を続けるよう通知で求めています。業者の訪問時に、火の扱いを一緒に確認してもらうとよいでしょう。
チューブでの転倒を防ぐ
自宅では、長いチューブを引いて部屋を移動します。足が引っかかると転倒につながるため、通り道に余ったチューブを置かない、ドアに挟まないといった工夫が必要です。チューブの長さや機器の置き場所は、業者や訪問看護と一緒に、生活動線に合わせて決めていきます。
停電・災害の備えは「ボンベの残量」と「連絡の手順」
酸素濃縮器は電気で動くため、停電すると止まります。そのときは酸素ボンベに切り替えます。切り替えの手順は機器によって違うので、設置のときに業者から説明を受け、ご家族も手で覚えておきます。
備えとして大切なのは、予備ボンベの本数と残量を日頃から確かめること、そして停電時に業者と主治医へ連絡する手順を決めておくことです。地域の停電への備えは、船橋市のハザードマップと停電時の医療機器の備えでも詳しく紹介しています。
船橋市には、自力での避難が難しい方を事前に把握する避難行動要支援者の名簿があります。対象は要介護度や障害者手帳の等級などで決まっているので、該当するか市のページで確認しておきましょう。
また船橋市では、要件を満たす在宅酸素療法の方などを対象に、非常用電源の購入費用の助成を行っています。対象になる条件が細かく決まっており、購入前の相談が必要です。
外出用ボンベで、通院や散歩も
外出のときは、軽量の酸素ボンベを持ち歩きます。ボンベの残量と外出時間を見比べて、余裕を持った予定を立てることが基本です。ボンベの保管場所も、火気から離れた、倒れにくい場所にします。
火気・転倒・停電の安全チェック
| 項目 | 確認すること | ✓ |
|---|---|---|
| 火気 | 酸素の機器の周囲2m以内に、ストーブ・コンロ・線香・ろうそくを置いていない | ☐ |
| 火気 | ご本人・同居のご家族・来客が、酸素の近くでたばこを吸わないことを共有している | ☐ |
| 転倒 | トイレ・寝室・食卓への通り道に、余ったチューブが散らばっていない | ☐ |
| 転倒 | チューブがドアや家具の脚に挟まっていない | ☐ |
| 停電 | 予備ボンベの本数と残量を確認している | ☐ |
| 停電 | ボンベへの切り替え方を、ご家族も実際にやってみた | ☐ |
| 停電 | 業者・主治医・訪問看護の連絡先を、機器の近くに貼っている | ☐ |
| 外出 | 外出用ボンベの残量と、外出時間の目安を確認している | ☐ |
在宅酸素療法の費用の考え方と、負担を抑える制度
在宅酸素療法は医療保険の対象になる治療です。窓口での負担は加入している保険の負担割合によって変わり、負担を抑える制度もあります。
医療保険で毎月かかる費用
在宅酸素療法は、日本呼吸器学会のQ&Aにもあるように、保険適用の基準が決まっている治療です。医療機関の請求には、在宅での指導や管理に対する「在宅酸素療法指導管理料」や機器に関する項目が含まれます。診療報酬(=医療機関が受け取る診療の対価)は令和8年度診療報酬改定で見直されています。具体的な金額は、通院先の医療機関で明細書を見ながら確認してください。
高額療養費制度
医療費の自己負担が高くなったときは、高額療養費制度で1か月の上限額を超えた分が払い戻されます。上限額は年齢や所得によって決まります。問い合わせ先は、加入している健康保険の保険者です。
身体障害者手帳と介護保険
呼吸機能の障害の程度によっては、身体障害者手帳の対象になることがあります。船橋市では身体障害者手帳の申請に、指定された医師の診断書が必要です。手帳の等級によって受けられる助成が変わるため、主治医に相談してみてください。
介護が必要な場合は、介護保険の申請も考えます。船橋市の要介護・要支援認定の申請は、本人やご家族が行けないときに、地域包括支援センターやケアマネジャーの事業所に代行してもらうこともできます。
在宅酸素療法の方に訪問看護でできること
訪問看護は、主治医の指示書にもとづいて、自宅での呼吸の状態と暮らしを一緒に見ていくサービスです。病気の判断や治療の変更は主治医が行い、訪問看護は観察と生活の支え、連絡のつなぎ役を担います。
呼吸の状態と酸素飽和度の観察
訪問のたびに、呼吸の速さや息苦しさ、顔色、むくみ、パルスオキシメーター(=指先で血液中の酸素の割合を測る機器)での酸素飽和度を確認します。いつもとの違いを記録し、主治医への報告につなげます。
機器の使い方と、息切れしにくい動き方
酸素濃縮器の設定が指示どおりか、カニューラが正しく当たっているか、ボンベへの切り替えができるかを一緒に確認します。
入浴・着替え・排せつなど、息が上がりやすい動作の工夫も相談できます。環境再生保全機構の「日常生活の工夫」では、口すぼめ呼吸や、動作の速さを調整して休みを入れる方法が紹介されています。
当ステーションには理学療法士・作業療法士も在籍しており、主治医の指示のもとで動き方の練習も行えます。
感染予防と、増悪のサインの共有
呼吸器の病気は、かぜや肺炎をきっかけに急に悪くなること(=増悪)があります。日本呼吸器学会のCOPDのページでは、手洗いやうがい、ワクチンで感染による増悪を予防するとしています。
息切れがいつもより強い、たんの量や色が変わった、熱があるといった変化は、増悪のサインのことがあります。呼吸リハビリテーションマニュアル③ 日常生活の工夫にも、増悪の主な症状と対処の章があります。どの変化で、誰に連絡するかを、主治医の指示をもとに事前に決めておきます。
ご家族の相談と、主治医・業者・ケアマネジャーとの連携
ご家族の「これで合っているのか」という不安を聞くことも、訪問看護の大切な役割です。気づいたことは主治医に報告し、機器の不具合は業者に、介護サービスの調整はケアマネジャーにつなぎます。
医療機器を使う方の訪問看護については、医療依存度が高い方の訪問看護でも紹介しています。
在宅酸素で退院する前に確認しておくこと(チェックリスト)
退院前に確認しておくと、自宅での最初の数日が落ち着きます。ご家族向けと退院支援担当向けに分けました。
ご家族向け
| 確認すること | ✓ |
|---|---|
| 酸素の流量と吸う時間(安静時・動くとき・寝るとき)を紙で受け取った | ☐ |
| 酸素の業者の名前と連絡先を控えた | ☐ |
| 機器を置く場所と、チューブの通り道を決めた | ☐ |
| ボンベへの切り替えを、退院前に一度やってみた | ☐ |
| 同居のご家族・来客の喫煙について話し合った | ☐ |
| 体調が変わったときの連絡先(主治医・訪問看護)を確認した | ☐ |
| 停電時の手順と、予備ボンベの本数を確認した | ☐ |
退院支援担当向け
| 確認すること | ✓ |
|---|---|
| 主治医の酸素指示(流量・時間)と、在宅での主治医が決まっている | ☐ |
| 業者への依頼と、自宅への設置日が退院日に間に合う | ☐ |
| 訪問看護指示書の依頼と、訪問看護の初回訪問日を調整した | ☐ |
| ケアマネジャーと介護保険の状況(申請中・認定済み)を共有した | ☐ |
| 退院前カンファレンスで、増悪時の連絡の流れを決めた | ☐ |
| 喫煙歴とご家族の喫煙状況を、在宅側に引き継いだ | ☐ |
在宅移行の確認項目全体は、退院調整担当の方向けの在宅移行チェックリストにまとめています。
よくある質問
Q1. 在宅酸素をしていても、一人で家にいられますか?
A. 体の状態や生活の環境によります。主治医の判断を前提に、ケアマネジャーや訪問看護と、見守りや連絡の方法を相談して決めていきます。
Q2. 息苦しいとき、酸素の量を自分で増やしてもいいですか?
A. 酸素の流量は主治医の指示どおりにしてください。息苦しさが強いときや、いつもと違うときは、事前に決めた連絡先に相談しましょう。
Q3. 家族がたばこを吸います。どうすればいいですか?
A. 酸素の機器の周囲2m以内に火気を置かないこと、酸素吸入中の近くで喫煙しないことが求められています。吸う場所と時間を家族で決め、来客にも伝えておきましょう。
Q4. 停電したらどうすればいいですか?
A. 酸素ボンベに切り替え、業者と主治医に連絡します。切り替え方と連絡先は、停電する前に確認しておくことが大切です。
Q5. 在宅酸素の方も訪問看護を使えますか?
A. 使えます。主治医の指示書にもとづいて、呼吸の状態の観察や機器の使い方の確認、息切れしにくい動き方の相談などを行います。まずは担当のケアマネジャーや病院の退院支援担当にご相談ください。
在宅酸素での退院を考えている方、退院調整をご担当の方は、あおい訪問看護ステーションにご相談ください。船橋市・市川市・鎌ケ谷市・白井市・習志野市で訪問しています。
参考リンク(公式ページ)
- 在宅酸素療法における火気の取扱いについて(厚生労働省)
- 在宅酸素療法における火気の取扱いについて(注意喚起及び周知依頼)(厚生労働省)
- 家族が在宅酸素療法を行っています。酸素を吸入中に注意することがありますか(PMDA)
- Q29. 在宅酸素療法が必要と言われました。(日本呼吸器学会)
- H-02 慢性呼吸不全(日本呼吸器学会)
- B-01 慢性閉塞性肺疾患(COPD)(日本呼吸器学会)
- 日常生活の工夫(環境再生保全機構)
- 呼吸リハビリテーションマニュアル③ 日常生活の工夫(環境再生保全機構)
- 令和8年度診療報酬改定について(厚生労働省)
- 高額療養費制度を利用される皆さまへ(厚生労働省)
- 身体障害者手帳(船橋市)
- 要介護・要支援認定の申請(船橋市)
- 介護保険に関する申請窓口(船橋市)
- 避難行動要支援者の避難支援にご協力をお願いします(船橋市)
- 在宅で人工呼吸器を使用している方等への非常用電源の購入費用の助成(船橋市)
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