子どもの手先と作業療法|デコキーホルダー6工程と3Dプリンター

子どもの手先と作業療法|デコキーホルダー作りで見る6工程|あおい訪問看護ステーション

作業療法士(OT)が訪問先でお子さんとキーホルダーを作っている、と聞くと、遊びの時間に見えるかもしれません。この記事では、デコキーホルダー作りの6つの工程で作業療法士が何を見ているのか、難易度をどう合わせているのかを、船橋市のあおい訪問看護ステーションが写真つきでご説明します。がんばりシール台紙の使い方、3Dプリンターで道具をその子に合わせる可能性と注意点、ご家庭で試すときの安全もまとめました。「手先が不器用」「工作を嫌がる」が気になっているご家族に、判断の材料をお渡しする記事です。

この記事に出てくるお子さんの様子は、複数の事例を組み合わせて再構成したものです。個人が特定される情報は含んでいません。

目次

作業療法士が「工作」をする理由

作業療法士がキーホルダー作りを訪問に持ち込むのは、楽しいからだけではありません。まず、作業療法とは何をする仕事なのかからご説明します。

作業療法は「生活の中の活動」を手段にします

日本作業療法士協会は、作業療法を「人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助」と定義し、「作業」を「対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為」としています(2018年の定義)。ここでいう「作業」は、訓練用の課題ではありません。食事や着替え、遊び、学校での活動など、その人にとって意味のある毎日の行為全体を指します。

法律にも根拠があります。理学療法士及び作業療法士法 第2条第2項は、作業療法を「身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせること」と定めています。工作は、作業療法士にとって法律に書かれた仕事の道具のひとつです。

遊びの中にねらいを混ぜます

お子さんに「今日は手の練習をしよう」と伝えても、続きにくいことがあります。そこで訪問では、楽しめる活動を先に用意し、その中にねらいを混ぜる形をとっています。お子さんにとっては「好きな形を選んで、かわいい物を作る時間」です。OTにとっては、指先の使い方・両手の分担・力の加減・待てる長さを同時に見られる時間です。

ただし、ここは正直にお伝えします。デコキーホルダーを作れば手先が器用になる、とお約束するものではありません。行っているのは、手を使う場面をつくり、その様子から状態を読み取り、毎日の動作につなげることです。遊びを使う考え方の全体像は、前回の記事訪問看護の時間、子どもと何をしているの?|手を使う遊びが持つ意味でご説明しています。

なぜデコキーホルダーなのか

仕切り付きの透明ケースにパーツを配置した完成デコキーホルダー数個と、空のケースが机に並ぶ写真

写真は、訪問で作った完成品です。透明なケースにギンガムチェックやパステルの台紙を敷き、ジェリービーンズ風・くま・うさぎ・いちごのパーツやパールビーズを並べ、パステル色のボールチェーンを付けています。仕切りのあるケースは、お弁当箱のように区画ごとに違うパーツが入っています。

このキットをよく使う理由は3つあります。

  • 選ぶ場面が多い:背景の形、台紙の柄、パーツ、チェーンの色。「自分で決めた」場面を何度も作れます
  • 工程を短く区切れる:6つの工程のどこで止めても、次回に続けられます
  • 形が残り、持ち歩ける:かばんに付けて家族に見せられます。「今日やったこと」を説明する材料になります

デコキーホルダー作りで見ていること

柄紙、子ども用はさみ、ビーズケース、透明ケース、接着剤、デコパーツ、ボールチェーンが並ぶ材料一式の写真

写真は材料一式です。形を切り抜いたあとの柄紙、ピンクの子ども用はさみ、6区画のビーズケース、透明ケース、チューブ入りの接着剤、デコパーツ、紙皿の上のボールチェーンとつまようじが写っています。つまようじは、接着剤を少量ずつ取ったり、細かいパーツの位置を直したりするときに使います。写真の上のほうでは、お子さんの手が柄紙を持っています。

工程は6つです。工程ごとに見ているところと、毎日の動作とのつながりを表にまとめました。

6つの工程と、見ているところ

デコキーホルダー作りの6つの工程で見ていること。選ぶ・切る・つまむ・貼る・閉じる・通すと、ボタン・はし・鉛筆など日常動作の対応
工程見ていること日常生活とのつながりつまずいたときの手助け
①背景の形を選ぶ2〜3択から決められるか。決めるまでの時間服を選ぶ、献立から選ぶ選択肢を2つに絞る。指さしや視線で答えてよいことにする
②台紙を切る紙を持つ側の手が動いているか。線に沿って紙の向きを変えられるか袋を開ける、折り紙下絵の線を太くする。切り抜き済みの台紙を渡す
③パーツを選んでつまむ親指と人さし指でつまめるか。手のひら全体で握っていないかはし、ボタン、鉛筆の持ち方仕切り付きケースから1個ずつ取る。大きめのパーツから始める
④接着剤で貼るチューブを押す力を加減できるか。乾くまで待てるか歯みがき粉を出す、のりを塗るつまようじで少量ずつ取る。待つ間に次のパーツを選ぶ
⑤ケースを閉じる左右同時に力を入れられるか。位置を合わせられるか弁当箱のふた、ペットボトルのキャップ机に置いて上から押す。大人が片側を押さえる
⑥チェーンを通す小さい穴を目で見つけられるか。細いチェーンの先を持てるか靴ひも、ファスナーの先を合わせるチェーンの先を少し通しておく。留めるのは大人が行う

「日常生活とのつながり」の列を見ると、キーホルダー作りの動きが、ボタン・はし・鉛筆と同じ動きの組み合わせでできていることが分かります。工作の様子から、毎日の動作のどこで手が止まりやすいかを推測しています。

同じ時間に、座った姿勢が崩れないか、どの工程で疲れが出るか、うまくいかなかったときにどう反応するかも見ています。これらは、看護師が確認する体調や医療的ケアと同じ訪問の中に重ねています。

型を使うキーホルダー作りでも、見ているところは同じです

別の日には、透明な型にラメや小さなパーツを入れて作るキーホルダーにも取り組みました。作り方は違っても、指先で押す・つまむ・位置を合わせる・チェーンを通す、という手の使い方は、上の6工程と共通しています。

お子さんが机の上のパックを、両手の指先で押している手元の写真
中身の入ったパックを、指先で押しています。力の入れ具合を自分で調整する場面です。
お子さんがピンク色のピンセットで、机に広げた小さな星形のパーツをつまんでいる写真
小さな星形のパーツを、ピンセットでつまんでいます。もう片方の手は机の上に置いています。
ピンセットを持ち直し、つまんだパーツを見ているお子さんの写真。机にはボールチェーンや小さなパーツが並ぶ
つまんだパーツを、落とさないように運びます。
お子さんがつまようじの先で、透明な型の中のパーツの位置を直している写真。もう片方の指で型を押さえている
つまようじの先で、型の中のパーツの位置を直しています。もう片方の指で型を押さえています。
星やハート、いちごのパーツが入った透明なキーホルダーと、金色のボールチェーン。ほかに型から外した作品が3つ並ぶ
できあがったキーホルダー。最後にボールチェーンを通します。

ピンセットで小さなパーツをつまむ場面では、指先の力を弱めすぎても強めすぎても、パーツが飛んだり落ちたりします。つまようじで位置を直す場面では、片方の手で型を押さえ、もう片方の手で細かく動かす、左右の手の役割分担が必要です。工程は違っても、作業療法士が見ているのは「どの動きで手が止まるか」です。

つまずいたときは、お子さんではなく「工程」を変えます

パーツをつかむとき、手のひら全体で握ってしまい、いくつも落としてしまうお子さんがいました。OTは、パーツを袋から6区画のビーズケースに入れ替えました。区画が小さいので、指先でつまむしかなくなります。同じ形で続けるうちに、「1個ずつつまむ」場面が増えたと記録に残ることがあります。

このとき、「指でつまんで」と言葉で指示することはあまりしません。道具の側を変えると、動きが自然に変わることが多いためです。ご家庭でも「うまくできない」と感じたときは、お子さんを直すより先に、道具や工程を変えられないか考えてみてください。手先の不器用さが長く続く場合の考え方は、子どもの発達性協調運動症(DCD)とは?関わり方と支援でご説明しています。

「レベルにあわせて」が作業療法の考え方

作業療法士が説明書を見ながら、白い紙に雲とハートの形の下絵をマジックでなぞっている写真

写真は、作業療法士が訪問の前に事務所で下準備をしている場面です。説明書を見ながら、白い紙に雲とハートの形の下絵をマジックでなぞっています。説明書には「レベルにあわせて背景の形を選ぼう!」と難易度別の案内があります。この一文は、作業療法の考え方そのものです。

「少し手伝えばできる」難しさを探します

活動が簡単すぎると、お子さんは飽きます。難しすぎると、投げ出します。OTが探しているのは、「少し手伝えばできる」という難しさです。この「ちょうどよさ」はお子さんごとに違い、同じお子さんでも体調や気分で日ごとに変わります。ですから難易度を1つに決めず、その場で上げ下げできる準備をしておきます。

下準備で、難易度を作っておきます

同じキットでも、大人が先にどこまで準備しておくかで、難しさは変わります。当ステーションでは次の3段階を用意しています。説明書のレベル分けとは別の、訪問側の調整です。

「レベルにあわせる」の3段階。やさしい=形も台紙も準備済み、ちょうどいい=一部を自分で切る、むずかしい=形から自分で決める
段階の目安作業療法士の下準備お子さんが行う工程
はじめて/はさみに不安がある台紙を切り抜いておく。パーツを少数に絞る選ぶ・つまむ・貼る・閉じる
はさみに挑戦したい下絵の線を太くなぞった紙を用意する線に沿って切る工程から参加する
自分で進めたい白い紙と形の見本だけを渡す形を選んで写し、切るところから行う

はじめてのお子さんには、切り抜き済みの台紙で「選ぶ・貼る」から始めます。うまくいったら、次の回で「線に沿って切る」を加えます。疲れている日は、大人が切る側に回ります。難易度を上げることも下げることも、失敗ではありません。

作業療法士が事前に自分で試作する理由

デコキーホルダーの材料を机に広げて下準備する様子

写真のように、OTは訪問の前にキットを自分で作ってみます。どの工程で手が止まりやすいか、ケースを閉じる力や接着剤が乾く時間はどのくらいか、小さい部品はいくつあるか。これらを自分の手で確かめてから、訪問で出す量と工程の数を決めます。

ある保護者の方から、「うちの子は工作が嫌いなんです」とご相談を受けたことがあります。OTが試作して工程を分けてみると、嫌がっていたのは工作全体ではなく、「切る」工程だけかもしれない、と見当がつきました。切り抜き済みの台紙で始めたところ、「選ぶ」「貼る」は進みました。「工作が嫌い」の中身は、工程ごとに分けると見えてくることがあります。

3Dプリンターで道具を「その子に合わせる」作業療法の可能性

オレンジ色の樹脂で出力したトイプードルの置物と、奥の机に置かれた工具や樹脂の巻き糸が写る写真
当社の3Dプリンターで出力した、トイプードルの置物。

写真は、当社の3Dプリンターで出力した、トイプードルの置物です。3Dプリンターは、パソコンで作った立体の形を、溶かした樹脂を少しずつ積み重ねて形にする機械です。この節では、作業療法で3Dプリンターを使うときに考えられる「可能性」と、気をつけたいことをご説明します。研究や報告で示されている使い方をもとにしたお話で、効果をお約束するものではありません。

道具を合わせるのは、もともと作業療法の仕事です

ここまで、パーツを入れる容器を変えると指先の使い方が変わる、というお話をしてきました。道具をその人に合わせることは、作業療法の仕事の一部です。

日本作業療法士協会は、作業療法士がする福祉用具の支援として、その人に合う用具を一緒に選ぶこと、使いやすく工夫・改良すること、その人に合わせて作ることを挙げています。例として、指の力が弱い人のためのグリップや、かがめない人が靴下をはくための道具が紹介されています。選んだり作ったりしたあとに、安全に使えるかを確かめ、使い方を練習することも仕事に含まれます。

このように、日常生活で難しくなっている動作を行いやすくするための道具を「自助具(じじょぐ=自分で生活動作を行うための工夫した道具)」と呼びます。協会は自助具づくりを支援する作業療法士の活動も紹介しています。3Dプリンターは、この「合わせて作る」作業の選択肢を広げる道具のひとつです。

3Dプリンターで変えられること

3Dプリンターの特徴は、形や大きさを数字で決めて出力し、合わなければデータを直して作り直せることです。

写真は、訪問先で車を停めるときに、フロントガラスの内側に出しているプレートです。「訪問看護活動中」「ご迷惑をおかけいたします。」の文字と、事業所名・電話番号を入れ、当社の3Dプリンターで2色に分けて出力しました。大きさや文字の配置を、自分たちの使い方に合わせて決められるのが3Dプリンターのよいところです。この「用途に合わせて形を決める」考え方は、道具をその子に合わせる作業療法の考え方とつながります。作業療法の視点で整理すると、次のようになります。

車のフロントガラスの内側に置かれた、「訪問看護活動中」と事業所名・電話番号が入った白いプレートの写真
訪問中に車のフロントガラスの内側に出すプレート。当社の3Dプリンターで2色に分けて出力しました。
変えられること例作業療法で考えられる意味
握る部分の太さ・形鉛筆やスプーンに付けるグリップ手の大きさや握り方に合わせて試せる
大きさつまむ練習に使う部品の大きさ「少し手伝えばできる」難しさに合わせやすい
段階的な作り直し手の動きの変化に合わせて形を少しずつ変える一度作って終わりにせず、状態に合わせて見直せる
好きな形動物や乗り物など、お子さんが選んだ形「好き」を入口に、手を使う時間を作りやすい

段階的な作り直しについては、研究の報告があります。回復期の脳梗塞の患者さん1名に、3Dプリンターで作った筆記用の自助具を、手の機能の変化に合わせて段階的に形を変えて提供した作業療法の症例報告です。修正した自助具への満足度は高く、こうした方法が訓練に役立つ可能性が示されています。ただし、大人の1例の報告で、お子さんにそのまま当てはまるかは分かっていません。

作り手を育てる動きもあります。理学療法士・作業療法士の養成校で3Dデータの設計を学ぶ演習を行い、学生が自助具を考えてデザインした報告もあります。

お子さんの作業療法で考えられる使い方

お子さんの場合、3Dプリンターは「道具」としてだけでなく、「作る活動」の材料としても考えられます。

写真は、当社の3Dプリンターで白い樹脂から出力した、動物の形の小さな置物です。いくつかには、出力するときに形を下から支えていた透明な部分(サポート材)がまだ付いています。出力したばかりの物は、このように支えを外したり、表面を整えたりする手間が残ります。こうした「仕上げ」や色を塗る作業も、工程を短く区切れば手を使う活動の候補になります。考えられる使い方を挙げます。

白い樹脂で出力した動物の形の小さな置物がボウルにたくさん入り、一部に透明な支えが付いたままの写真
白い樹脂で出力した、動物の形の小さな置物。透明な支え(サポート材)が付いたままのものもあります。
  • 好きな形を入口にする:お子さんが選んだ動物の形を出力し、手を使う活動のきっかけにする
  • 出力したあとの工程を練習にする:色を塗る、シールを貼る、部品を組み立てる。デコキーホルダーの6工程と同じように、工程を短く区切って取り組む(サポート材を外す作業は、外れた破片が小さく、先がとがることもあるため、大人が行うか、作業療法士と相談してから取り入れます)
  • 形を一緒に決める:「どの動物にする?」「大きさはどのくらい?」と選ぶ場面を作る
  • 自分専用のグリップを試す:鉛筆やスプーンの持ち手を、手の大きさに合わせて試作する(使うかどうかは作業療法士・主治医と相談したうえで判断します)

いずれも「できるかもしれない」使い方です。どれが合うかは、お子さんの手の使い方、口に入れる癖の有無、体調によって変わります。

気をつけることと、できないこと

3Dプリンターで作った物は、市販のおもちゃや医療用の製品と同じ安全基準で作られているわけではありません。使う前に確かめたいことを表にまとめました。

気をつけること確かめたいこと
強度・割れ力のかかる部分が割れたり欠けたりしないか。使う前と使ったあとに表面を確認する。座る・立つ・歩くときに体重を預ける物には使わない
小さい部品の誤飲部品が口に入る大きさではないか。外れる部品がないか
高温部・におい出力中の機械にお子さんを近づけない。換気し、機械の取扱説明書の注意表示を守る
衛生表面がなめらかとは限らない。口に触れる物・食器・肌に長く触れる物に使うかは、自己判断せず相談する
医療機器・補装具の代わりにしない治療や生活に必要な用具は、作業療法士・主治医と相談し、公的な制度も含めて検討する

強度については、3Dプリンターで手指切断の方の訓練用仮義手を作った作業療法の実践報告で、利点は対象者の負担が少ないこと、欠点は強度面の対策が必要なことと報告されています。

小さい部品について、消費者庁はおもちゃなど小さなものを誤飲する事故への注意として、子どもの口の大きさは直径約4cmで、これより小さい物は誤飲の原因になる可能性があると呼びかけています。出力した物の大きさも、この目安で確かめてください。

体を支える用具や、障害を補う用具が必要な場合は、公的な制度があります。厚生労働省の補装具費支給制度では、身体の機能を補ったり代わりをしたりする用具について、市町村が支給を決めます。日常生活を助ける用具には、日常生活用具給付等事業もあります。

船橋市の障害児・者への補装具費の支給のページでは、購入する前の申請が必要で、個人で購入した補装具は助成できないと案内されています。制度の内容は自治体によって異なりますので、お住まいの市町村の窓口でご確認ください。

3Dプリンターで作る装具は、国の制度の中でもまだ検討の途中です。厚生労働省の補装具評価検討会の2026年9月8日の資料では、補装具の基準は製作工程でのデジタル技術の使用を明示していない、と整理されています。同じ日の資料で、日本作業療法士協会は「3Dプリンティング」を装具の作り方として基準に明記するよう提案しました。あわせて、材料の安全性・耐久性、品質管理、体に合っているかを確かめる体制などの要件を整えることも求めています。厚生労働省はこの提案を「検討することとしてはどうか」としており、2026年10月時点で決まったことではありません。

また、3Dプリンターはまだどこでも使われている道具ではありません。全国の作業療法士3,469名が回答した杏林大学などの研究グループの全国調査では、使った経験がある人は4.4%(153名)でした。導入の壁として「職場に設備がない」「使い方がわからない」が挙げられています。

3Dプリンターは、体を道具に合わせるのではなく、道具をその子に合わせて作り直せる可能性を持つ道具です。一方で、形を出力できることと、毎日の生活で安全に使い続けられることは別の話です。作った物が合っているか、安全に使えるかを確かめる手間は省けません。使ってみたいと感じたら、担当の作業療法士・主治医にご相談ください。

がんばりシール台紙の使い方と、気をつけること

電車の線路に沿って24個のシール枠が並び、スタートからゴールを目指す「がんばりシール台紙」

写真は、訪問で使っている「がんばりシール台紙」です。電車の線路に沿って丸いシール枠が24個並び、「スタート!」から「ゴール!」を目指します。「なまえ」「ごほうび」「がんばったね!」の欄があり、できたらシールを貼ります。使い方は簡単ですが、使い方を間違えると効かなくなる道具でもあります。

お子さんの「好き」から入ります

カービィが描かれ、1から20までの星形のシール枠が並ぶ「がんばりシート」
キャラクターが描かれた「がんばりシート」。スタートからゴールまで、20個の星形の枠が並んでいます。
ふみきりの絵本、電車のあいうえお図鑑、ひらがなボード、電車のがんばりシール台紙を机に並べた写真
電車の絵本、踏切のおもちゃ、シール台紙などの教材

電車が好きなお子さんの訪問では、ふみきりの絵本、電車の「あいうえお」の図鑑、電車の絵が付いたひらがなボード、そして電車の線路のシール台紙、とテーマをそろえることがあります。好きなものが入口にあると、初めての道具にも手が伸びやすく、「今日は何をするの」の説明も短くて済みます。工作のパーツも、好きな食べ物や動物のものを多めに入れます。

パフェ、マカロンのケーキ、エクレア、カップケーキなど、スイーツを模した工作作品6点。キャラクターのピックが添えてある
「スイーツ天国」をテーマに作った、スイーツを模した工作作品。食べ物ではありません。
黄色で統一したスイーツ風の工作作品。デコレーションしたカードケース、ドーム形の飾り、パフェ風のミニチュア
同じテーマで、好きなキャラクターの黄色に色をそろえた作品。こちらも食べ物ではありません。

スイーツが好きなお子さんは、「スイーツ天国」というテーマで作品を作りました。パフェ、マカロンをのせたケーキ、エクレア、カップケーキ。どれにも好きなキャラクターのピックが立っています。もう1枚は、キャラクターの黄色に色をそろえた作品です。好きなものがテーマになると、「次は何色にしよう」「ここに何を置こう」と、自分で決める場面が次々に生まれます。クリームを絞り出す工程では、握る力の加減も必要になります。

小さなビーズを並べて作ったキャラクターの作品15点。立てた台に9点、手前の机に6点が並んでいる
小さなビーズを並べて作った、キャラクターの作品。立てて飾れる台に並べています。

キャラクターが好きなお子さんとは、小さなビーズを図案どおりに並べて作品を作ることもあります。1粒ずつ指先でつまんで置く動きには、細かいものをつまむ力と、見本を見ながら位置を合わせる力の両方が要ります。どの色から置くかを決める場面は、作業の順番を自分で組み立てる練習にもなります。作品が増えてくると、並べて飾ること自体が次の楽しみになります。ビーズは小さな部品なので、作業のあとは数を確かめて片づけ、小さなお子さんの手が届く所に置かないようにします。

台紙の使い方

  1. 始める前に、何ができたらシールを貼るかを、お子さんと一緒に決めます
  2. ゴールのごほうびを、お子さんと相談して「ごほうび」欄に書きます
  3. できたら、その場でお子さん自身がシールを貼ります
  4. ゴールしたら、「がんばったね!」欄に家族から一言書きます

訪問では、工程1つごとに1枚、または訪問1回で1〜2枚のペースで使います。「終わり」が見えにくい活動に区切りをつけたいとき、やったことを目に見える形で残したいときに役立ちやすい道具です。

効かなくなってきたときの見直し方

シール台紙は、使い続けるうちに効かなくなることがあります。よくあるサインと見直し方を表にまとめました。すべてのお子さんに合う道具ではありません。合わないと感じたら、いったんやめる判断も含めてご相談ください。ごほうびを使う仕組みについては、本人が望む活動と交換する形で取り組みが続いたという研究がある一方、外からのごほうびが「自分からやりたい気持ち」を弱めることがあるという研究もあります。効き方には個人差があり、幼いお子さんのシール全般に当てはめられる結論はまだありません。

がんばりシール台紙の使い方3ステップと、気をつけること3つ(本人の意思で決められない結果に貼らない、目当てにしない、合わなければ卒業)
よくあるサイン見直し方
「シールくれる?」が、何かをする前に出るごほうびを小さくする。貼る対象を具体的な行動にする
「もらえない」と怒る。基準があいまい「はさみで1回切ったら1枚」のように、誰が見ても分かる行動に貼る
ゴールが遠く、途中でやめてしまう枠を減らす。ゴールを近くに置き直す
ごほうびが、回を追うごとに大きくなる物より「次に作る形を先に決める」のような活動にする
きょうだいで枚数を比べてけんかになる台紙は1人1枚。目標を別にして比べない
貼れなかった日を、つい責めてしまうできた日だけを記録する。貼ったシールを取り上げない

訪問のたびに「今日はシール何枚?」と先に聞くようになったお子さんがいました。OTは、貼る対象を「自分で選べたこと」「乾くまで待てたこと」に変え、ごほうびは本人と相談して「次に作る形を先に決める」ことにしました。シールの話が先に出る回数は、少しずつ減ったと記録に残っています。

ご家庭で試すときのコツと安全

「家でもやってみたい」というご相談をいただくことがあります。道具をそろえることより、安全の準備と進め方の設計のほうが、続きやすさに影響します。

安全のチェックリスト

ご家庭で試すときの安全チェック5つ(3歳未満の子、直径約4cm、小分け、接着剤とはさみの管理、疲れたら終わり)
気をつけるもの訪問で行っていること(ご家庭でもそのまま使えます)
小さい部品(デコパーツ・ビーズ・チェーンの留め具)1回分だけ出す。トレーの上で作業する。終わりに数えて戻す。完成品も保管場所を決める
接着剤大人が管理する。つまようじで少量ずつ取る。目や口に入れない。換気する。製品ラベルの注意表示を守る
はさみ子ども用を使う。刃を閉じ、刃先を人に向けずに渡す。下のお子さんが近づかない配置にする
口に入れる癖目を離さない。癖が強い時期は、小さい部品を使う工作自体を見送る

小さい部品の大きさの目安や、誤飲したときの相談先は、前回の記事訪問看護の時間、子どもと何をしているの?|手を使う遊びが持つ意味の「安全のこと」でご説明しています。

疲れたらやめる。完成より過程

最初から「2〜3回に分ける」と決めておくと、途中でやめることが失敗になりません。嫌になる前にやめると、次に「またやろう」と思いやすくなります。完成したキーホルダーより、その日にお子さんの手が動いた時間のほうが大切です。手伝う量は「あと一歩」だけにとどめると、お子さんの手が動く時間が残ります。

年齢の目安

工作キットのパッケージには対象年齢の表示があります。対象年齢は、その年齢向けの安全対策が施されていることを示す表示で、器用さの目安ではありません。対象年齢より下のお子さんには使わない、という読み方をします。

訪問では、年齢だけで「何歳からこの工作」と線を引いていません。手の使い方、口に入れる癖の有無、指示の伝わり方を見て、お子さんごとに判断しています。

手の発達の目安として、母子健康手帳(2026年4月からの様式)には、2歳ごろ「積み木で塔を作る」、3歳ごろ「クレヨンなどで円を描く」、4歳ごろ「はさみを上手に使う」といった確認項目があります。これは保護者の記録と相談のための項目で、一律の期限や診断の基準ではありません。「うちの子は遅いのでは」と感じたときの相談の入口として使ってください。

あおい訪問看護ステーションの小児訪問と作業療法士

ここまでの関わりは、訪問看護の時間の中で行っています。制度上の位置づけと、当ステーションの体制をご説明します。

訪問看護で、作業療法士が訪問できます

訪問看護では、看護師のほかに、作業療法士や理学療法士が訪問することがあります。医療保険の訪問看護では、訪問看護基本療養費の定めの中に、理学療法士・作業療法士などによる訪問が位置づけられています。いずれも主治医の訪問看護指示書と、訪問看護計画書に基づいて行います。この枠組みは2026年6月1日の診療報酬改定後も変わっていません。訪問できる回数や時間には決まりがあり、お子さんの状態によって個別に判断します。

ただし、「工作をしたい」という理由だけで訪問看護が使えるわけではありません。利用できるかどうかは、主治医の判断を含めた個別の検討になります。診断がついていない段階でもご相談は可能です。発達が気になる段階での相談先もあわせてご覧ください。

看護師と一緒に、体調も見ます

当ステーションの小児訪問は、看護師と、リハビリ職(作業療法士・理学療法士)が関わります。OTが手の使い方や遊びの様子を見ている同じ時間に、看護師は呼吸や体調、医療的ケアの状況を確認します。見たことは1つの訪問看護計画にまとめ、主治医やご家族と共有します。体調によって「今日は工作を見送る」と判断することもあります。医療的ケアが必要なお子さんへの支援全体は、医療的ケアが必要なお子さんの在宅支援でできることをご覧ください。

ご相談の流れ

「うちの子に合うのか」「何をしてもらえるのか」は、状況を伺わないと分からない部分があります。まずはお電話か、お問い合わせフォームからご連絡ください。

あおい訪問看護ステーション(株式会社True Colors)
電話:050-5536-3136
お問い合わせフォーム:https://visitcare-aoi.com/contact/
対応エリア:船橋市・鎌ケ谷市・市川市・白井市

よくある質問

Q1. 訪問看護で作業療法は受けられますか。

A. 当ステーションでは、看護師と一緒に作業療法士がご自宅に伺うことがあります。主治医の訪問看護指示書に基づいて行いますので、まずは主治医または当ステーションにご相談ください。医療保険の訪問看護(訪問看護基本療養費)に、作業療法士などによる訪問が定められています。

Q2. 何歳から受けられますか。

A. 年齢で線を引いていません。乳児期の医療的ケア児から学齢期のお子さんまで、状態に合わせて関わり方を組み立てます。工作を取り入れるかどうかは、年齢ではなく、手の使い方と口に入れる癖の有無を見て判断します。

Q3. うちの子は工作を嫌がります。それでも意味がありますか。

A. 「工作が嫌い」の中身を、工程ごとに分けて見ることから始めます。切る工程だけが苦手、接着剤の感触が苦手、など理由はさまざまです。苦手な工程は大人が受け持ち、「選ぶ」「見る」だけの参加から始めることもできます。無理にさせることはしません。感覚の苦手さがある場合の関わりは、発達障害・自閉スペクトラム症のお子さんに訪問看護は使える?もご覧ください。

Q4. 費用はかかりますか。

A. お子さんの訪問看護は、医療保険で行うのが原則です。自己負担の割合は、年齢や所得によって異なります。お住まいの自治体の子ども医療費助成、小児慢性特定疾病医療費助成、自立支援医療などの公費で負担が軽くなる場合がありますが、制度の内容や自己負担額は自治体によって差があります。費用は、契約前の面談で書面を用いてご説明します。

Q5. 3Dプリンターで作った道具は、訪問看護で使えますか。

A. 使うかどうかは、お子さんの状態と目的に合わせて個別に判断します。3Dプリンターで作った物は、医療機器や補装具の代わりにはなりません。強度や誤飲、衛生の確認も必要です。気になる場合は、担当の作業療法士・主治医、または当ステーションにご相談ください。

Q6. 補装具や日常生活用具の費用に助成はありますか。

A. 障害のあるお子さんには、市町村が支給を決める補装具費の制度や、日常生活用具の給付の制度があります。船橋市では購入前の申請が必要で、個人で購入した補装具は助成できないと案内されています。対象や負担は自治体によって異なるため、お住まいの市町村の障害福祉の窓口でご確認ください。

まとめ

作業療法士がデコキーホルダーを作るのは、選ぶ・切る・つまむ・貼る・閉じる・通すの6工程に、ボタン・はし・鉛筆と同じ動きが含まれているからです。 難しさは下準備の量で上げ下げします。「少し手伝えばできる」所を探すのが作業療法の考え方です。 がんばりシール台紙は、貼る対象を具体的な行動にし、ごほうびをお子さんと決めると続きやすくなります。 ご家庭で試すときは、小さい部品・接着剤・はさみの管理を先に決め、疲れたらやめてください。 3Dプリンターは、道具の形や太さをその子に合わせて作り直せる可能性がある道具です。使うかどうかは作業療法士・主治医とご相談ください。 「うちの子に合うのか」は、まずお電話でご相談ください。

※この記事の内容は2026年10月時点のものです。制度の内容や商品の仕様は変わることがあります。写真の商品は当ステーションが実際に使用しているもので、特定の商品をおすすめする目的で掲載しているものではありません。

参考リンク(公式ページ)

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この記事を書いた人

金子誠 看護師

株式会社True Colors 代表・看護師。千葉県船橋市で「あおい訪問看護ステーション」を運営しています。

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